
霊素の果て 第一巻 零階
すべて語りうるものは、内側から語られる。 ――第零律
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Читать ещё序章 数えられぬ者すべて語りうるものは、内側から語られる。――第零律◇ ◆ ◇一七月の初め、ひどく蒸し暑い夕暮れのことだった。影蓮は、谷中の坂の途中にある古い下宿の三階――いや、屋根裏と呼んだほうが正しい、天井の低い四畳半から、まるで何かを決めかねている者のように、ゆっくりと外へ出た。階段を下りるあいだに、彼は二度立ち止まった。一度目は、二階の廊下の奥から大家の咳が聞こえたとき。二度目は、自分がなぜ立ち止まったのかを考えはじめたときだった。家賃が三か月分、溜まっていた。大した額ではない。だがそれは額の問題ではなかった。大家の雁木トメと顔を合わせるたび、あの小さな濁った目が、彼を――彼という人間ではなく、彼の滞納を――秤にかけるように見る。それが蓮には耐えがたかった。いや、正確に言えば、耐えがたいと感じることさえ、この頃はもうほとんどなかった。それこそが問題なのだと、蓮は薄々分かっていた。蓮には、生まれつき、ものが少しだけ余分に見えた。人が立っている。その足もとの影ではなく、その人が「在ること」にしがみついている、手のようなものが見えるのだ。細い糸のこともあれば、錆びた鎖のこともある。赤ん坊のそれは驚くほど太く、死にかけた老人のそれは驚くほど細い。そして誰のものも決まって、見えない上のほうへ、どこまでも伸びていた。幼い蓮の話を聞いた医者は「共感覚の一種でしょう」と言った。母は泣いた。父は何も言わず、翌年いなくなった。蓮自身は、それを何とも呼ばなかった。名をつければ、それは自分のものになってしまう。そんな気がしたからだ。ただ、ずっと後になって、ある男がそれを縁糸と呼ぶのを聞くことになる。人が在ることにすがる、その糸。二半年前、蓮は大学の同人誌に、短い論文をひとつ載せた。題は「零について」。誰も読まなかったと、彼は思っていた。要旨はこうだ。――世界は、上へ行くほど、下にあるものを零と数える。三次元に生きる我々にとって、紙に引かれた線の厚みは零である。紙の上の住人がどれほど泣き叫ぼうと、我々にとってそれは、厚みを持たない出来事にすぎない。ならば、我々よりも上に立つ何かにとって…
Иногда самые важные истории начинаются с первой страницы.






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